一瞬の風
「どぉ?」
目の前にスカイブルーのユニホームを着たオットくんが立っている。
胸には赤い文字で「仙台○」。
高校時代の陸上部のユニホーム姿。
ランニングからむき出しの腕は白いし、足もまた白い。
(首から上は黒い。つまりサラリーマン焼けだね)
でも、そこそこまんざらでない筋肉だ。
鏡に映った自分を見つつオットくん、
「高校・大学時代よりも筋トレしてるからなぁ、今までの人生で今が一番筋力あるかもなぁ(自画自賛)」
まぁ、胸筋はそうかもしれないけど、
まず走ってないし、昔のようにはいかないでしょ。
軽く失笑したまめこであるが、
今日ある小説を読み終えて、
オットくんが思わずユニホームを引っ張りだしてくるほど、
熱くなったキモチがちょっとだけわかった、気がした。
佐藤多佳子著「一瞬の風になれ」一部二部三部。
2007年本屋大賞受賞作品。
陸上を通して描かれる高校3年間の眩しすぎる青春小説。
よくぞここまで取材して、
よくぞここまで活字にできたなぁという感じ。
経験者にはツボにはまるんだろう陸上用語もわかりやすかったし、
零コンマ何秒っていう世界が、
まさに手に汗を握る感覚で文章化されていた。
風が吹いていた。
結構分厚い三部作だけど、オットくんは2日、まめこは4日で読破。
陸上経験者にはたまらない一冊だろう。
まめこのようなブサイク走りでさえ、
スプリンターの気持ちを推し量って、
いつもの散歩で腿上げしてみたくらいだから。
(オットくんは震えが止まらなかったらしい)
「それにしても、こういうドキドキはしばらく感じてないなぁ」
「ふぅん。まめこは会社勤めしてたときのプレゼンとかで感じたりしたよ」
「オレはないなぁ。ドキドキはしても、あのスタートラインに立ったような、ああいうドキドキじゃないんだよなぁ。なんというか失敗したくないっていう無難な…」
「じゃさぁ、子どもの運動会で組別のパパリレーとかで選ばれて走ったら?」
「うぅ〜ん。練習もしないで走ったら別に緊張もしないだろうな」
「じゃさぁ、同じクラスのパパに陸上経験者がたくさんいて、タイムトライアルしてリレーの選手を選別して、何ヵ月も前から朝練とかやって、そろいのユニホームとか作って、隣りのクラスのパパにはすごい強敵がいて、実はそいつはオットくんが高校時代どうしても勝てなかったライバルだったってわかって、そいつとアンカーでオットくんが対決することになったら?」
「う”! そりゃ燃えるかもねぇ」
オットくんの闘争心は、意外に簡単に火がつきそうである。
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