騎手しゅしゅしゅ 三話
おかじいは勘のいい男であった。
うちの豚と競わせた時に、何かが起こったことは確かだ。
おかじいはこの半年間、ずっとそのことばかりを考えていた。その何かがわかれば、第二のユイサンダーの馬主にでもなって、儲けようなんて考えもないわけではない。でもそんなことより、ただ単に知りたくて、おかじいの足は自然に例の豚のところへ向くのだった。豚は当然普通の豚に戻っていたし、出荷の時期をとうに過ぎていたけれど、おかじいはそのまま手元に置いておくことにしていた。
うちの豚は誰にも操られなくても一人で馬場を走ってみせた。加速も減速も鮮やかで、ゴールがどこにあるのかも知ってるようだったな。そうだ、まるで透明の騎手でも乗っているような・・・。んん、もしや・・・。
「今度は何を言い出すのかと思ったらおかじい、騎手を乗せるなだって?」
調教師はおいおい聞いてくれよとばかり、他の厩務員に聞こえるような大声でわざと言った。
「一度だけでいいんだよ、騎手を乗せないでレースできないか?」
「おいおい、競馬のルールぐらい知ってるだろう」
「わかってる。公式のレースじゃなければどうだ、別に構わないだろう」
「いや構わないことなんか無い。もし怪我でもしたらどうする。おかじいの豚舎なんか吹っ飛ぶぞ。ユイサンダーは今や中央競馬にも目ぇかけられてる期待の星なんだぞ」
「オレの豚舎なんてどうなっても構わん。どうしても確かめたいことがあるんだ」
「ほ、本気かよ・・・」
その時一本の電話が鳴った。
「先生、中央競馬からっす」
厩務員から電話を受け取った調教師は、言葉少なに電話を切った。
「よし! やった。ユイサンダーが中央競馬に出走するぞ! おかじい、その話は無しだ。さぁ帰ってくれ。特訓だ!」
「はい!」
厩務員たちは目を輝かせ、ガッツポーツするものもあり、握手し合うものもあり、みな意気揚々としていた。一人場違いなおかじいは、頭をボリボリ掻きながら厩舎を後にした。
地方上がりのユイサンダーは、すぐにマスコミの注目の的となった。というのも、もう一頭注目の馬が出走するためだった。『ユイvsマータン夢の直接対決!! ファン投票割れる』なんて見出しが躍っていた。名はマータンテイオー。ユイサンダーと同じく短期間で昇り馬になった地方出身の牡馬。黒毛で鼻筋と足先だけが白く、どことなく愛嬌がある。血筋はいいのに体格に恵まれず、あまり期待もされていなかった。それがやはり、竹々ウタカが騎乗したりするまでの人気馬になり、中央競馬デビューとなった。
「マータンテイオーがどんな馬か知らないけど、望むところだわ」
ユイサンダーは野ダニに向かって同意を求めるように言った。
「今度はそうはいかないだろうな」
野ダニは落ち着いた声で言った。
「え? どうしたのよ、そんな弱気なあなたは初めてだわ。ちゅ、中央競馬なんていったって、大したことないわよ、たぶん」
「中央競馬のことじゃないさ。マータンテイオーだ」
「だ、大丈夫よ。調教師が言ってたけど、短足よ」
「・・・でも僕らに騎乗するのは誰だっけ?」
「う”、そうよね。私もそれが一番不安だったの。またあの竹々が乗るなんてあり得ない。竹々さえ邪魔しないでくれれば私、絶対マータンテイオーに勝つ自信があるんだけど・・・」
「君もそう思うか。一つ作戦があるんだけど、どうだろう?」
野ダニはユイサンダーの耳の中で作戦を打ち明けると、一週間後に控えたレースに向け、イメージトレーニングに余念がなかった。
四話につづく
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